シャフトのスパイン

シャフトの「スパイン」とは

スパイン(Spine)とは英語で「背骨」という意味です。シャフトのスパインとは、カーボンシャフトの製造段階で出来てしまうシャフトの背骨みたいなものです。カーボンシャフトは円筒状に出来ており、カーボンシートを芯棒に幾重にも重ね合わせて作ります。その際、巻き始めと巻き終わりがあり、これがシャフトのやや硬い部分として残ります。

下図はカーボンシャフトの断面を拡大したものだとお考えください。ちょっと強調して描いていますが、シャフトは左の①のように完全に均一な円筒ではなく、右の②のように外壁の一部が厚くなっている円筒であり、この外壁の厚い部分がスパインです。

スパインとは


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スパインがシャフトの剛性に与える影響

スパインがシャフトの剛性に与える影響

シャフトにスパインが存在することにより、シャフトの剛性は、赤矢印の向きで強くなり、青矢印の向きで弱くなります。別の言い方をしますと、シャフトは赤矢印の向きで硬くなり、青矢印の向きで軟らかくなります。

ちなみに、スチールシャフトはカーボンシャフトに比べると外壁の厚さが均一で、最も硬い向きの剛性と最も軟らかい向きの剛性の差はほとんどありません。






トゥダウンとは

トゥーダウンとは

トゥダウンとは、インパクト付近でシャフトが下向きにしなることを言います。写真で、シャフトがわずかに下向きにしなっているのが判りますでしょうか。これがトゥダウンです。

よくスパインとトゥダウンは、同じ文脈で語られるます。 「スパインが6時の方向を向くようにシャフトをヘッドに装着すれば、トゥダウンを小さくすることができる」という具合に。

これは嘘ではありませんが、視点がかなりミクロです。次項でその理由をご説明します。


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トゥダウンとスパインの関係

トゥダウンは、ヘッドスピードが速いプレイヤーほど大きくなり、シャフトが軟らかいほど大きくなり、ヘッドの重心距離が長いほど大きくなります。仮に、60m/sのヘッドスピードで、グニャグニャに軟らかいシャフトが装着された、重心距離が40mmのヘッドのドライバーをマン振りしたら、一体どのぐらいトゥダウンするでしょうか?(ちなみに、40mmというのは、ドライバーヘッドの重心距離の平均値です。)

答えは物理学で決まっていて、トゥダウンの量は最大でも40mmです。どんなにヘッドスピードが速くても、どんなにシャフトが軟らかくても、トゥダウンの最大値は重心距離の長さまでなのです。トゥダウンは、シャフトの延長線上にヘッドの重心が来ようとするために起こる現象ですので、トゥダウンの上限は重心距離までです。

同じヘッドスピードでスイングした場合、トゥダウンの量はシャフトの軟らかさに比例すると考えられます。一本のシャフトの最も硬い向きの剛性と最も軟らかい向きの剛性の差は平均で1.5%程度です。このことから、一本のシャフトの最も硬い向きと最も軟らかい向きの平均的なトゥダウンの差は0.6mm(40mm × 1.5%)であると言えます。

「視点がかなりミクロ」という意味がお解りいただけたでしょうか。シャフトのスパインをどの向きに装着しようが、ある程度のトゥダウンは発生するのであって、スパインの向きによって減らせる量はほんのわずか0.6mm前後なのです。

スパイン調整の目的

シャフトの振動を安定させること

スパイン調整の目的は「トゥダウンを減らすこと」ではありません。スパイン調整の真の目的は「シャフトの振動を安定させること」です。ゴルフクラブのグリップ側を固定し、ヘッド側を持ち上げて手を離すと、シャフトは振動します。スパイン調整されていないゴルフクラブの場合、シャフトの振動面が徐々にずれていき、振動が楕円軌道を描き始めます。スパインの影響がとても大きい場合、縦振動が90度ずれて、横振動になってしまいます。

シャフトは最も剛性の弱い向きで振動したがります。シャフトの最も剛性の弱い向きを、スイング中に発生するシャフトの振動の面に合わせることにより、シャフト自身が振動したがっている方向とシャフトの振動の面が一致し、振動が安定します。

シャフトの振動の安定とは?

「百聞は一見に如かず」と申しますので、下記の2つの動画をご参照ください。上がスパイン調整されていないクラブ、下がスパイン調整されたクラブです。






スパイン調整のシャフトの向き

スイング中のシャフトの振動の向き

スイング中にシャフトはどのような向きで振動するのでしょうか? まずは、切り返し直後にヘッドにどのような力が働き、シャフトがどういう向きにしなるか、ということを考えてみましょう。

切り返し直後にヘッドに働く力

ヘッドには、スイングプレーンに沿った方向に、慣性の力(ヘッドがその場に留まろうとする力)が働きます。上の写真で言うと、赤矢印の方向に力が働きます。そして、その方向にシャフトがしなります。

上の写真で赤の四角で囲った部分を切り取って、ぐるりと回転させて、拡大したものが下の写真です。ヘッドを中心にして考えると、下の写真の赤矢印の方向に力が加わり、その方向にシャフトがしなります。

ヘッドに働く慣性の力

次にインパクトの直前に、ヘッドにどのような力が働き、シャフトがどういう向きにしなるか、ということを考えてみましょう。以下の2枚の写真がヒントになります。

シャフトのしなり

左の写真ではシャフトがわずかに前方(飛球線方向)にしなっているのが判ります。右の写真ではシャフトがわずかに下方にしなっているのが判ります。インパクト直前のシャフトのしなりは、必ずこうなります。

ヘッドの重心はシャフトの延長線上に来ようとするので、前方かつ下方にシャフトがしなるのです。ヘッドを中心にして考えると、下の写真の青矢印の方向に力が加わり、その方向にシャフトがしなります。

インパクト直前のシャフトのしなり

この写真から分かるように、スイング中にシャフトはヘッドを斜めに貫く平面上(の矢印の方向)で振動します。黄色の矢印の面(飛球線方向)で振動する訳ではありません。このことから、振動数を計測する際にも、どの方向の振動数を計測すべきかが必然的に決まります。ヘッドを斜めに貫く平面上(の矢印の方向)が、振動数を計測すべき正しい向きです。






スパインの向きよりも、アンチ・スパインの向きが重要

世間で一般的に行われているスパイン調整は、「スパインの位置(シャフトの最も剛性の強い向き)を見つけて、それを6時の方向(下向き)に合わせる」というものです。これは間違いではありませんが、ベストな方法でもありません。その理由は、スパインは一本のシャフトに二箇所以上あり得るからです。

スパイン調整の目的は振動を安定させることであり、振動はシャフトの最も剛性の弱い向きで安定します。シャフトの最も剛性の弱い向きを当サイトでは「アンチ・スパイン」と呼ぶことにします。スパインが一本のシャフトに2箇所以上ある場合(例えば強いスパインが一箇所、弱いスパインが一箇所、計二箇所あるというような場合)、強い方のスパインの向きとアンチ・スパインの向きは90度にはなりません。

見つけるべきはスパインではなく、「アンチ・スパイン」です。そして、「アンチ・スパイン」をヘッドを斜めに貫く平面(の矢印の方向)に向けるというのが、ベストなスパイン調整です。






実際のゴルフクラブの数値

実際のゴルフクラブの数値を数値ページでご参照ください。